books 『スローメディスン~まるまる治る、ホリスティック健康論』

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「スロー」と「ホリスティック」が共鳴する
辻 信一 (文化人類学者、環境運動家)

■上野圭一+辻信一『スローメディスン~まるまる治る、ホリスティック健康論』刊行に寄せて

 本書は代替医療、統合医療、補完医療、そしてホリスティック医療などと呼ばれる、病と健康をめぐる世界的な潮流について考える本だ。しかし、誤解しないでいただきたい。代替医療についてのエキスパートである上野圭一さんを講師にお迎えする本書は、だが、「××療法」へと読者をいざなうものではない。「ガンはこうすれば治る」といった類の本は世に溢れている。そしてそうした本に人々が群がる。ぼくだって数年前、母の病をなんとか治したいと、いくつもの本を買い込んだりしたものだ。「こうすれば治る」はそれらの本におまかせして、ここでは、もう一度、その「治る」が一体どういうことなのか、を考え直してみたいと思うのだ。

 世は、健康ブーム。テレビも新聞もインターネットも町も電車の中も健康雑誌や医薬品やサプリメントの宣伝で賑わっている。目抜き通りはシャッター街となり、人通りもほとんどない地方の町で昼間賑わっているのが病院や診療所だけだ、という話もよく聞く。病院の待合室は今や公民館と化して、「ここんとこ、××さん来ないけど、大丈夫かな?」といった不気味な会話が飛び交う。
 それほど医療サービスに依存する健康オタクの国民は、同時に、その医療サービスに対する満足度の低さでも世界的に知られているという。
 健康が“流行る”――それは思えば奇妙な現象だ。一方で、病気への不安や恐れが増している。安心して病気にもなれない、のだ。健康を維持する伝統的な智恵も身についていないし、病気になっても薬や医者に頼るばかりで、その病気とつき合う術もない。どうやら健康ブームとは、むしろぼくたちの社会の、そしてそこに生きるぼくたち自身の不健康さの証なのかもしれない

「治らざる自分」とは、何か。それは「バラバラな私」と言い換えることができるのではないか。上野さんも言うように、健康を表す「health」という英語も、癒しにあたる「healing」も、もともとは「丸ごと」や「全体」を表す「whole」から派生してきた言葉だ。しかし、ぼくたちはいつの間にかこの出自を忘れて、健康という言葉を、ひどくバラバラで断片的な意味でとらえるようになっていた。自然界から切り離された人間の健康や病、社会のありようからとは無関係な<私>の健康や病、そして丸ごとの私からは区別された一身体部分の健康や病、というふうに。現代社会に氾濫する健康と病に関する情報、そして医薬品、健康食品、サプリメントなどは、まさにこの「バラバラ症候群」の症状に他なるまい。
 ぼくたちは今、人類史上稀にみる危機の時代に生きている。さまざまな危機は、しかし、すべて根っこのところでつながっているのだろう。地球の病、生態系の病、社会の病から、我々人間の心身の病まで、どれも健康の欠如、つまり「丸ごとに欠ける」という問題を根にもっている。ぼくたちに必要なのは、その丸ごとをとり戻すこと、つまり、ホリスティックに生きることであろう。

 本書は、上野さんに代表される新しい医療思想と、スローライフと呼ばれるライフスタイル変革運動の共通基盤を探る試みである。読者の皆さんにぜひ、スローとホリスティックが共鳴する様子を聴いていただきたい。
 なぜスローかって? スローを一言で訳せば「つながり」。つながるのには時間がかかる。しかし、「早い者勝ち」をルールとする競争社会は、つながりを断ち切ってスピードと効率性とを増すことによって成り立つ。さまざまなつながりの網の目の中に生きる丸ごとの自分は、バラバラの断片的な「個」と化し、「病んだ私」となってしまう。
もう一度、健康や癒しという言葉を、全体という故郷につれ戻さなければならない。それは“機械としてのからだ”のオーナーである自分から、宇宙のさまざまなつながりの総体としての自分へという、「私」の転換を意味するだろう。それこそが、エコロジカルであることの本来の意味だったはずなのだ。

 伊東での上野さんとの対談以来、ぼくはブータン、タイ、韓国、長野、岩手、福岡、大分、熊本へと旅を重ねた。そしてそれぞれの地域で進んでいる社会変革運動の中で、新しい医療を目ざす試みが重要な役割を果たしているのをこの目で確かめた。もちろん、それは偶然ではない。ホリスティック医療という言葉は、きっと世界中のオルタナティブな思想や実践にとってのひとつのキーワードになりつつあるにちがいない。
 読者の皆さんに、そうか、健康や病気について考え、行動することが、よりよい社会をつくってゆくことにつながるんだ、という実感をもってもらえたら、うれしい。

■『スローメディスン~まるまる治る、ホリスティック健康論』 辻信一+上野圭一/1200円(税別)/大月書店/09.12

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